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キミは「郷愁」という言葉を知っているか？

かつて地球に住んでいた人類が　自らの生まれた地を思う気持ちのことだ

もはや多くの人間たちは　自分がどこで生まれたのかなど忘れているがね

今から4時間前　ある団体による声明が地球から発信された

「地球は我々　人造生命体による統治を行う

　人類は速やかに地球より退去すること

　48時間後より　地球上にいる人類の強制排除を開始する」

この団体はかつて地球で研究が進められ　一定の市民権を得た人造生命体の集団だ

事実上　研究は凍結されたに等しいが　既に生み出された生命体たちは

地球上での一応の生存権を獲得し　形式的には人類との共存を実現している

だが　そもそもの生命としての成り立ちが異なる者どうし

それに起因するトラブルが社会現象として問題になっている

この集団の首魁は自らを　聖なる宇宙人　「サングレイマン」と名乗っているそうだ

……人工物が「聖人」を名乗るなど　実におこがましいことだよ

この事件に対して　各星系国家の間では多少意見が割れているものの

大方次のような合意に着地する見込みになっている

「地球上残存人類に対する地球外退去支援の施行」

すなわち　人類による地球の放棄だ

事実　全人類の約99.3%が地球圏外に住居登録を行っており

地球上で文化を営んでいるものは極少数

経済活動の拠点も5大惑星系が中心となっているのが現実だ

この期に及んで地球に固執することなど　感傷以外のなにものでもない

それは私としても重々承知しているつもりだ

それでも　キミに頼みたい

どうか　あの傲慢な人工生命の集団から　地球を取り戻してはくれないだろうか

作戦の遂行にあたって　単独での大気圏突入能力を持つ戦闘機　ウイングフレームを1機用意した

内蔵部品の徹底した独立ユニット化を目指し　敵地での柔軟な機能換装を実現した次世代型戦闘機だ

さらに志を同じくする地球残存の仲間たちによる　現地での補給・整備支援の約束を取り付けてある

先行偵察によると　既に奴らは地球上の哨戒を開始しているとのことだ

かつて人類が地球上で発明した兵器類の残骸を改修し　戦闘機として運用しているらしい

それだけではなく　地球上でのウイングフレームの飛行も確認されている

これらは完全に敵性勢力と考えた方が良いだろう

仕事としては割に合わないことは分かっている

私がいくら報酬を用意したところで　コストパフォーマンスの天秤はこちらへは傾いてこないさ

それでも私はキミに連絡を取った

なぜなら　キミは知っている

自分の故郷がどこなのか

この作戦は正義の戦いではない

一人のただの老人の　感傷を守る戦いだ

もしキミにも「郷愁」を理解できるのなら　返信をくれ

待っている